よく耳にする「ぎっくり腰」って何だと思いますか?
「ぎっくり腰」は一般的に使われている俗称であり医療用語ではなく
日常の何気ない動作によって起こった急性腰痛の1つです。
そしてこのぎっくり腰には大きく分けて2種類あります。
① 腰回りの関節や関節周囲靭帯の捻挫
「ぎっくり腰」によって捻挫を起こす関節には
主に腰椎椎間関節と仙腸関節があります。

この画像は胸腰椎移行部(T11~L3)の写真です。
椎間関節とは椎骨を連結するための
上下の椎骨によってできる関節で左右に1つずつあります。
(例:L1/L2椎間関節 → L1左右下関節突起 + L2左右上関節突起)
そして椎骨同士は多くの靭帯によってその連結を保っていて
腰椎椎間関節周囲には6つの靭帯があります。
・前縦靭帯(anterior longitudinal ligament: ALL)
・後縦靭帯(posterior longitudinal ligament: PLL)
・黄色靭帯(ligamentum flavum: LF)
・棘上靭帯(supraspinous ligament)
・棘間靭帯(interspinous ligament)
・横突起間靭帯(intertransverse ligament)


↑胸椎 ↑腰椎
腰椎の上下関節突起はほかの椎骨に比べて
比較的椎体に対して垂直についています。
そのため腰部は主に胴体の前屈後屈に関与しており
腰椎間関節やこれら6つの靭帯は
床に置いてあるもの拾ったり持ち上げるなどの
動作の際に傷める可能性が高いです。


この2つの画像は仙腸関節(後面)の写真です。
仙腸関節とは腸骨と仙骨を連結する関節で左右に1つずつあります。
そして仙腸関節も多くの靭帯によってサポートされています。
・前仙腸靭帯(anterior sacroiliac ligament)
・骨間仙腸関節(interosseous sacroiliac ligament)
・後仙腸靭帯(posterior sacroiliac ligament)
・腸腰靭帯(iliolumbar ligament)
仙腸関節周囲には上記の4つの靭帯に加えて
仙骨と腰椎の連結を図るために腰椎椎間関節周囲と同様に
6つの靭帯が仙骨にも走行しています。
仙腸関節は傾斜角度5度以内(2mm未満)の可動域で
身体の前屈後屈に伴い仙骨が前後に回転したり
歩行に伴い腸骨(寛骨)が前後に回転することで
その動作のサポートをします。
仙腸関節の関節面は地面に対して垂直に近いので
腰椎椎間関節同様に身体の前屈後屈を伴う動作の際に
傷めてしまう可能性が高い関節です。
また仙腸関節周囲の靭帯は
女性ホルモンの影響を受けて柔軟性が出るため
生理前後の女性は特に腰を痛
めやすくなっているので注意が必要です。
② 腰回りの筋肉を傷める
腰回りには多くの筋肉があり
腰椎椎間関節を含む”腰部”の筋肉は3層になっており
深層の筋肉は1つ1つが小さく
椎骨1つ1つの動きを発生させます。
中間層は脊柱起立筋群や腰方形筋などで
胴体部分の姿勢の保持や背屈の役割をします。
表層の筋肉は広背筋で主に上腕の伸展内旋の動きを行います。
これらの筋肉は胴体の前屈後屈運動に加え
捻り(捻転)や横に傾ける動き(側屈)の際にも
これらの筋肉に強い牽引力がかかったり
さまざまな動作を行う際に
筋力以上の筋収縮を行おうとすることで
傷めてしまうことがあります。
ぎっくり腰になった時に避けた方がいいこと
① 患部を温める
最初の方に書いた通り「ぎっくり腰」は急性腰痛です。
そのため痛みのある周辺には熱感が生じます。
これは傷んだ部分を修復しようと血液が集まってくることが原因です。
ですが血液の中には痛み物質(ブラジキニンなど)も含まれているため
温めるなど血液循環を促進する行為は痛みを強くする可能性があります。
急性の場合はケガを起こしてから24~72時間は
アイシングをすることで痛みの軽減などの効果がみられます。
② うつ伏せで寝る
腰部は横から見たときに前方凸のカーブ(前弯)になっており
うつ伏せになるとこのカーブが強調されます。
それにより腰部背筋群はスイッチをOFFにしてしまい
起き上がることが困難になったり
起き上がる時や起き上がった後に強い痛みを伴うことがあります。
ですが眠っている間に寝返りをうって
「目が覚めた時にはうつ伏せになっていた」なんてこともありますよね。
そんな時は背筋を使って起き上がろうとせずに
一度横向きになって腕を使って身体をゆっくり起き上がらせましょう。
可能であれば誰かに補助してもらうと
より負担を少なくして起き上がることができます。
③ 不必要な前屈後屈運動や痛みを伴う動き
不必要に前かがみになったり上体を反らしたり
痛みが生じる動きを行うと
悪化したり治るまでに時間がかかったりします。
下のものを拾う時は胴体は曲げずに膝の屈伸運動を使うなど
腰回りの動きをなるべく少なくして安静にしましょう。
大切なのは痛みがなくなってから
「ぎっくり腰は癖になる」なんて耳にしたことはないですか?
ぎっくり腰が関節周囲の靭帯を傷めたことによるものである場合
癖になる可能性は十分にあります。
靭帯は損傷した場合、
修復された部分の靭帯はもろくなってしまいます。
そのため靭帯が伸びてしまったり切れてしまうと
その分その靭帯によって固定されていた関節の安定性は低くなります。
なのでそのまま何もせず放置していると
緩くなった関節がまた捻挫を起こし”ぎっくり腰の癖”がついてしまします。
また筋肉を傷めたものの場合は
痛みがある間はその筋肉を
あまり使わなくなるため当然筋力が落ちます。
筋力が落ちた状態で今までと同じように身体を動かしていると
その筋肉は常に筋力以上の働きをしなくてはならなくなるため
ぎっくり腰自体はよくなっているのに痛みがなくならなかったり
「腰が重い」や「腰がだるい」など
慢性的に腰の状態が悪くなったりします。
そのためぎっくり腰になった時に
一番大事なのは痛みがなくなった後なのです。
① ぎっくり腰に伴う身体の不調(compensation)の除去
身体のどこかに痛みが生じている場合
周囲の筋肉を収縮することで患部を守ろうとします(防御性反射)。
そのため患部周囲の筋肉にハリやコリが出てしまいます。
また痛みの生じる動きや姿勢を回避しようと
普段と違う動き方や姿勢をすることにより
本来の痛みの原因とは全く別の場所に痛みなどが起こることがあります。
なのでまずはこれらを除去し身体全体の回復を促します。
② 筋力強化
関節や関節周囲靭帯を傷めたものの場合は
その関節周囲の筋力を強化してあげることで
関節の安定性の向上を図ります。
また筋肉を痛めたものによる場合は筋力回復を目指します。
筋力強化のトレーニングは簡単なもので大丈夫です。
例えばスクワットは簡単で場所も選ばずできるのでおすすめです。
お腹、腰、背中、おしり、脚を1度に鍛えられるスクワットは
自分の体重で行えてスペースも必要としないので
誰でも手軽に行うことができます。
10回を1セットとして1日3セットを目標に
できる回数から徐々に回数を増やしていきましょう。
またトレーニングの際、姿勢には十分注意して行いましょう。
トレーニングを間違った姿勢で行うと
トレーニングの効果を得ることができなかったり
身体を痛めてしまうなどの逆効果になってしまうことがあります。
トレーニングを開始する前には
行きつけの整骨院やジムなど
トレーニングのやり方を知っている人に教えてもらったり
YouTubeなどの動画サイトやインターネットで調べたりして
正しい姿勢とやり方を確認したうえで行いましょう。
<おすすめのトレーニング>
・スクワット
・Pelvic tilt
・Torso extension
・Back strengthening など
最後に
ぎっくり腰を起こしてしまう多くの原因は
腰回りお腹周りの筋力低下や筋力以上の力を
必要とする動作によるものです。
ぎっくり腰になってしまうと
数日間は痛みがあったり思うように動けなかったりと
気分まで沈んでしまいますよね。
先ほどおすすめしたトレーニングなどは予防としても効果的です。
ぎっくり腰はみなさんができる範囲のことで簡単に予防できます。
1日のなかのちょっとした隙間時間を利用して
ぎっくり腰予防してみませんか?
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